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西側諸国が今豊かなのは中世の教会がいとこ同士の結婚を禁じたから

投資理論家であり歴史研究家や神経内科医でもあるウィリアム・バーンスタイン氏がBloomberg RadioのPodcast「Master in Business」で話していたのですが、氏が最近読んで感銘を受けた本として"The Weirdest People in the World"をあげています。

この本でいうweirdは「変な」を意味する形容詞ではなく、Western Educated Industrialized, Rich and Democraticの頭字語だそうです。同書はJoseph Henrich氏という文化人類学者によって書かれ、彼の論題は、西側諸国がなぜ今豊かなのか、その理由として中世の教会がいとこ同士の結婚を禁じたからだ、というのです。

なぜある国は裕福で、ある国は貧乏なのかというのは経済学の長く続く議論の一つですが、これには結構Freaknomics的な驚きを感じます。

教会はいとこ婚だけでなく場合によってはひいひいひいひい爺ちゃんが共通の人(Fifth cousin)との結婚も禁じたとのこと。ここまでくると事実上、生まれ育った町を離れ、結婚相手を探さなければなりません。

数世紀にわたるこの制度は欧州社会の親族関係の構造を根本的に変えていきます。伝統的な親族関係では年長者に従う道徳的価値がありました。しかし、教会が親族以外との結婚を定めたことで、個人主義、不適合、仲間内への偏見のなさなどの新しい価値観が生まれたと言います。このPodcastバーンスタイン氏は“radius of trust”と表現していましたが、中世の教会がいとこ同士の結婚を禁じたことで、この半径が大きくなった社会、つまり見知らぬ人を信頼するようになった社会が豊かな現代社会の性質だといいます。経済的にも政治的にも制度的にも劣っていて、信頼の半径が非常に小さい社会はうまくいっていない傾向があります。例えば、北イタリアと南イタリアでは前者は信頼半径は非常に高く、後者は非常に低くなっています。

「trust」の崩壊が幾たびもの金融危機を引き起こしました。一方で「trust」は不確実性や取引コストを削減し、交換の効率を高め、専門化を促進し、アイデアや人的・物的資本への投資を促す役割があるでしょう。その広がりは中世の教会によるルールが要因だったという下りに、文化人類学的な視点で世の中を見る面白さを感じました。

Transcriptはこちらです。この「Master in Business」は、投資や経営だけでなく経済学、社会学、危機管理など様々な専門家が話すPodcastなので、視野や視点を広げる意味でもかなりおすすめです。 ritholtz.com